ブロードキャスト シネマティクスとは

Courtesy of KéexFrame
今回の「リアルタイムの基礎知識」では、ブロードキャスト シネマティクスのすばらしい新世界を探ります。事前にレンダリングされた従来のモーション グラフィックスとリアルタイム ブロードキャスト グラフィックがどのような進化を遂げ、この新しいジャンルにまとめられたのかを説明し、ブロードキャスト シネマティクスの利点やそのユース ケースをいくつか紹介します。さらに、これらを作成するうえで Unreal Engine が最適である理由と、Unreal Engine を使ってブロードキャスト シネマティクスを作成するプロセスについても説明します。ではまず、ブロードキャスト シネマティクスとは何かを見ていきましょう。
 

ブロードキャスト シネマティクスとは

テレビ番組では、その全体的なエクスペリエンスの構築においてグラフィック要素が大きな役割を担っています。多くの場合、これらの要素は、事前にレンダリングされたアニメーションとリアルタイム グラフィックという 2 つのカテゴリに分けることができます。

通常、オープニング映像やバンパー映像、プロモーション映像といった要素は事前にレンダリングされたアニメーションで構成されています。これらのアニメーションの制作には数日、もしくは数週間かかることがあります。これは、1 秒あたりのフッテージには少なくとも 50 フレームが必要になり、各フレームのレンダリングにはそれぞれ数分または数時間かかるためです。これらの高品質シネマティクスには、映画などで使われる レイ トレーシング やモーション ブラー、グローバル イルミネーションといった高度なレンダリング技法が利用されていることが多くあります。

多くのニュース番組やスポーツ番組では、試合のスコアや選挙結果、天気予報などの受信データに応じて、放送に使われるグラフィックが直前もしくはリアルタイムで更新されます。ごく最近まで、リアルタイム レンダリングにかかわる制限により、これらのグラフィックの品質は事前にレンダリングされたシーケンスよりもはるかに低いものでした。

Unreal Engine は、こうしたギャップを埋めるための機能を備え、従来の低品質ブロードキャスト グラフィック アプリケーションのリアルタイム編集/レンダリング機能と、オフライン レンダラの洗練された高度なレンダリング機能の両方を提供するリアルタイム 3D 制作ツールです。映像制作スタジオは、Unreal Engine を活用することで、新しいデータを使ってオンザフライで更新可能な映画品質のモーション グラフィックス シーケンス、「ブロードキャスト シネマティクスを作成できるようになります。
Courtesy of FOX Sports

ブロードキャスト シネマティクスの利点とは

ブロードキャスト シネマティクスは、番組のインタラクティブ グラフィック要素のビジュアル品質を押し上げつつ、オープニング映像やバンパー映像、プロモーション映像をエピソードごと、さらにはエピソード中にも更新して、ブランド アイデンティティーを維持しながら、それらを新鮮で興味深いものに保つポテンシャルを秘めています。
Courtesy of Capacity Studios
これは、番組のさまざまなグラフィック要素に統一感を持たせ、追加のやり直し作業を必要とせずに、それらのアセットを再利用できることを意味しています。さらに、同じアーティストのチームがすべての要素を作成できるため、全体的な生産性も高まります。
 

ブロードキャスト シネマティクスを活用する方法とは


ブロードキャスト シネマティクスは、必要となるインタラクティビティのレベルと編集内容に応じてさまざまな方法での利用が可能です。ブロードキャスト シネマティクスは、適用しなければならない編集上の変更に大きく左右されるあらゆるプロダクションで使用できます。以下のような例があります。
  • 勝利したチームのランキングや現在のゲームの状況に応じて内容が変わる、スポーツ番組のオープニング映像
  • 毎回 CM 明けに最新の議席獲得情報を示す、選挙報道番組のバンパー映像
  • 現在の状況や将来的な予報を提供する、天気予報コーナーのオープニング映像
Courtesy of FOX Sports
米国ニューヨーク州に拠点を置く映像制作スタジオ KéexFrame では、ワールド カップ カタール 2022 大会に向けて、Unreal Engine を活用したリアルタイムのシネマティクス オープニング映像を制作しました。この制作に使われたプロセスの詳細については、こちらの スポットライト でご覧いただけます。
 

ブロードキャスト シネマティクスの制作に Unreal Engine が最適である理由

Unreal Engine は、世界で最もオープンで高度なリアルタイム 3D 制作ツールであり、グラフィックを映画品質でレンダリングして、それを即座に反映させることができる リアルタイム レイ トレーシング や、コードをまったく記述することなくインタラクティビティを作成できる ブループリント ビジュアル スクリプティング システム を備えています。

Unreal Engine の最新版、UE5 には、リアルタイムのグローバル イルミネーション/反射システムである Lumen と、非常に高解像度のメッシュでの作業を可能にする仮想化マイクロポリゴン ジオメトリ システムである Nanite が導入されています。また、リグを使ったフォトリアルなデジタル ヒューマンをわずか数分で作成できるフレームワーク、MetaHuman も統合されており、これらの機能をすべて活用することで、リアルタイム ブロードキャスト グラフィックの品質を次のレベルに引き上げます。
Courtesy of KéexFrame
Unreal Engine は無料で ダウンロード でき、モーション グラフィックスやブロードキャスト シネマティクスといったテレビ番組向けコンテンツの作成も無料で行うことができます。Unreal Engine にはあらゆる機能と完全なソース コードへのアクセスが備わっているため、すぐにプロダクションに取り掛かることができます。さらに、数百時間にも及ぶ 無料のチュートリアルや他の学習資料 も用意されているため、必要に応じてこれらを参照できます。3D DCC アプリケーションの使用経験があるユーザーであれば、そこで培ったスキルを Unreal Engine でも十分に活用することができます。
 

Unreal Engine でブロードキャスト シネマティクスを作成するには

ブロードキャスト シネマティクスを作成するプロセスは、オープニング映像やバンパー映像、プロモーション映像などのブランディング グラフィックを企画して制作する今日の手法と似ていますが、必要なインタラクティビティや編集可能性について定義し、それを実装するための追加のステップが加わる点で異なります。現在、従来のツールを使ってブランディング グラフィックを作成するプロセスには、その複雑さに応じて一般的に 2 ~ 5 週間かかります。ブロードキャスト シネマティクスを作成する場合も同じような時間がかかります。

各ステップは次のとおりです。
  • 企画と発案 – このステップでは、番組のプロデューサーとクリエイターが根幹となるアイデアを協議し、意図したメッセージがそれによって視聴者に伝わることを確認します。
  • ムード ボード – このステップでは、メッセージの視覚的な雰囲気や番組のビジュアル要素を示すビジュアル リファレンスを見つけるか作成します。アイデアを得るうえで役立つサイトには、ArtStationVimeo などがあり、さらに Google や他の検索エンジンで見つけることのできる多くの AI 画像ジェネレータも参考になります。
Courtesy of KéexFrame
  • アニマティック – 主要なカメラ アングルや編集のペースを作成するステップです。Unreal Engine のビルトイン マルチトラック ノンリニア エディタである シーケンサー を使用して、モーションおよび意図のペースと雰囲気を設定するための主要なショットを定義します。このステップではプロダクション チームとの緊密なやり取りが行われ、ときにはエンジン内で直接変更できるライブ セッションが使用されます。また、ショットごとの編集可能性についても検討と定義を行い、ブループリント チームがテストの準備を開始できるようにします。
Courtesy of KéexFrame
  • ディテーリング – このステップでは、アニメーション、ライティング、シェーディングのディテールがすべて加えられます。また、最も多い数のチーム メンバーが同時に同じプロジェクトで作業を行う工程でもあります。アニメーション、ライティング、シェーディングの作成と編集が可能な強力なツールセットに加え、Unreal Engine では、Perforce といったソフトウェアを介した マルチユーザー編集 および 共同作業におけるバージョン管理 がサポートされています。
  • エフェクト – ビジュアル開発のこの最終ステップでは、パーティクルやボリュメトリックといったエフェクトを加えます。Unreal Engine には、Niagara VFX システム と、破壊、クロス、流体、ヘア (髪)、ビークル ダイナミクス (車両動力学) をシミュレートする物理システムの Chaos が搭載されています。
  • インタラクティビティとブループリントの開発 – このプロセスは「ディテーリング」と「エフェクト」の工程と並行して行われます。このステップでは、アニマティックの段階でショットごとに検討した内容に応じて、ブループリント チームがテクスチャやライブ映像、さらには 3D オブジェクトの置き換えなど、グラフィックを編集可能にするための「フック」を作成します。さらに、変更を制御するためのインターフェースも作成されます。これらは、使用要件に応じて、Unreal Engine で直接操作可能なウィジェットか、タブレットやラップトップの Web ブラウザを介した リモート コントロール によるもののいずれかになります。
  • レンダリング設定 – 次に、コンソール変数 (CVar) を使ってショットごとのディテールのレンダリングを定義し、必要な品質とパフォーマンスとのバランスを調整します。
  • テスティング、リハーサル、最適化 – 配信前の最後のステップでは、番組の内容に沿ったグラフィックのテストと、最も効率的なレンダリング時間に向けた調整を行います。
  • ショータイム! – 視聴者に優れた映像を届けましょう。

今回の「リアルタイムの基礎知識」は以上です。今回の基礎知識では、ブロードキャスト シネマティクスの基礎やその利点について説明し、ユース ケースの例もいくつか紹介しました。ブロードキャスト シネマティクスの作成について理解を深めていただけましたら幸いです。

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