Image courtesy of Meta Immersive Synthetics

I/ITSEC 2021 : 手頃な航空訓練をコンパクトなパッケージで提供

Sébastien Lozé |
2021年11月29日
充実したリアルタイムのビジュアルを提供するゲームエンジンは様々な分野において低コストで柔軟性のあるオープンソースのシミュレーション向けソリューションとして急速に普及しています。しかし、多くの場合、そのビジュアルにのみを重視し、Unreal Engineのようなゲームエンジンに搭載されいるロジック、プログラミング、物理学を活用していません。

Meta Aerospaceの一部門である Meta Immersive Synthetics (MIS)は、このようなパターンを防衛トレーニング向けのプラグアンドプレイ システム シリーズを開発することで変えようとしています。各プラットフォームは Unreal Engineを核として使用し、軍事トレーニングの需要に合わせてそのロジックモジュールとゲーム品質のグラフィックの両方を活用しています。
Image courtesy of Meta Immersive Synthetics
このプラットフォームは近距離と遠距離の両方で詳細な画像を提供するだけでなく、“ビジュアルはシミュレーション”というアプローチで、環境内の各要素の構成を識別し、反射性や熱特性などのプロパティを計算します。また、MISはシミュレーションをVRで実行することでシミュレータの物理的な設置面積を最小限に抑え、当然ながら全体的なコストの削減につながります。

成熟したプロトタイプ レベルに達した最初のプラットフォームは、Unreal Engineをベースにしたシミュレーション プラットフォームである NOR です。NOR の最初のアプリケーションは、コンパクトなVRベースのソリューションを目的としたAir Tactics Trainer モジュールです。このモジュールを使えば、パイロットは詳細で正確な地形の中を飛行し、戦闘シナリオを学び、緊急事態に対処し、想像しうるあらゆる状況を体験することができます。そして、これらはすべて、実際の航空機を使用するための費用やロジスティックの変更は必要ありません。

NORは、フロリダ州オーランドで開催される I/ITSEC 2021 conference で展示されます。参加者は、Meta Immersive Synthetics のブースで事前のトレーニングやシミュレータの使用経験がなくとも、ネバダ州の風景の中でF-16を操縦しながらこのシステムを試してみることができます。

シミュレーションの新たな方向性

Meta Aerospace は長年にわたりシミュレータの開発に携わってきましたが、MISはより柔軟でスケーラブル、将来の需要にも応えられる完全に新しいシステムを開発しています。MISはこの新しいシステムのバックボーンとして、使いやすいうえに、ゲームエンジンのレンダリング機能とプログラム可能なロジック、変化するシミュレーション需要に対応可能な堅牢なソースコードを備えた Unreal Engine を採用しました。
「軍隊がレンダリングやその他、ゲーム技術が提供するあらゆる面において、ゲーム業界に追いつこうとする必要はありません。意味のないことです」と、Meta Immersive Synthetics のマネージング ディレクターである Niclas Colliander 氏は述べています。「シューティングゲームで優れた弾丸落下の物理を実現しようと思うなら、それは基本的にシミュレーションで必要とされる物理学と同じです。ゲームエンジンが持っていない機能を開発することよりも、すでにあるものを活用して機能向上に取り組む方が理にかなっています」

Colliander 氏はスウェーデン空軍での経験をもとに、この新しい方向性を提案しています。彼は10年間戦闘機を操縦していましたが、所属していた飛行中隊が訓練に使用していたシミュレータには感心しませんでした。「私たちは何億ドルもする航空機を操縦していましたが、シミュレータの映像は私が家でプレイするビデオゲームよりも古いものでした」と述べています。「シミュレータは世界最高水準でしたが、すべてがシングルコア コンピューティング用に設計されており、コードベースは煩雑で大規模、そして古いものでした。また、シミュレータを起動するためには特別な訓練を受けたスタッフが必要でしたが、このようなことは2021年になっても必要とさるべきではありません」
Colliander 氏は、通常は飛行隊ごとに1台のシミュレータがあり、1台のシミュレータには1,500万ドル以上の費用がかかると付け加えています。MIS の目標はUnreal Engine の機能を活用して、シミュレータをより身近なものにすることだと Colliander 氏は述べています。

効率的な配備でコストを削減し、導入を促進

「コンシューマ用のヘッドセットを装着して、スティックとスロットルを買えばVR内で実際に飛ぶことができるのに、なぜ1,500万ドルもするドームが必要なのでしょうか」と Colliander 氏は問いかけます。「私たちの目標は、その何分の1かのコストで、パイロット1人につき1台のシミュレータを実現することであり、それが I/ITSEC で実際に展示する NOR システムです」

I/ITSECでの NOR のデモンストレーションは MIS にとって始まりに過ぎず、使用例が増えるのに応じてさらにモジュールを開発する予定です。例えば、I/ITSEC のImmersive Display Systems Inc.のブースでは、NOR の次期モジュールのひとつである JTAC Trainer が紹介される予定です。

「それは、プラットフォームがすべての軍事言語を話し、すべての人とインタラクションできるようにするための相互運用性です。これを実現するプラグインはすでに存在していますが、プラグアンドプレイで使用できるほど統合されているわけではありません」と Colliander 氏は述べています。

AIを活用して環境データソースを強化する

多くの企業は、GISデータ、衛星データ、3Dモデル、写真測量などを活用して周辺の世界を表現していますが、多くの場合、これらの使用は特定の解像度に制限されます。「フォトグラメトリ アプリケーションにつきものの問題は、対象に近づくと世界が溶けたように汚く見えてしまうことです」と Colliander 氏は述べています。

MISではあらゆる解像度で世界をリアルに表現するために、衛星画像、標高データ、道路網地図、電力網地図などのデータを組み合わせ、重ね合わせて解釈し、ビジュアルを向上させています。
Image courtesy of Meta Immersive Synthetics
さらに、ニューラルネットワークを使って、草、砂利、岩、アスファルトなど、世界の各要素をその構成に基づいてラベル付けします。これらのラベルにより、システムはセンサーモデリングを行い、世界のさまざまな部分に反射率や保温性などの値を割り当てることができます。
Image courtesy of Meta Immersive Synthetics

コアとなる Unreal Engine

Colliander 氏は次のように述べています。「私たちは環境との連携を重視したアプローチをとっています。私たちの考えでは、ビジュアルを作成するにはシミュレーションを行うのとまったく同じ知識が必要です。この2つを分けて考えるのは古い考えです」さらに、MISは同じアプローチを軍用車両にも適用しており、ビジュアルと車両を構成する実在の素材を結びつけることで、車両の構成に応じたレーダー断面積やビジュアルシグネチャ、赤外線シグネチャのシミュレーションを可能にします。

また、システムには正確な物理学と実用的な座標系も組み込まれています。Colliander 氏はゲームを例に、これらの要素の重要性を説明します。「ゲームでは、インタラクションは通常、近くにあったり、遠くにあるように見せかけることができます。しかし、実世界を模した環境で戦闘機の訓練を行う場合は、精度を維持しながら数百キロに渡ってインタラクションが必要になります」これが、MISがターンキーソリューションに 64-bit physics と楕円体ワールド座標系を採用した理由であると Colliander 氏は述べています。
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技術を証明する

I/ITSEC での NOR の展示は、MIS がシミュレーションの新しい方向性を示す最初のショーケースですが、これは始まりに過ぎません。MIS は、NOR のデモンストレーションを通じて、Unreal Engine をベースにしたアクセスしやすいシステムの可能性をシミュレーション コミュニティに伝え、啓蒙していきたいと考えています。 

Colliander氏によると、今後はさらに使用事例を増やし、それぞれの使用事例が前の事例とリンクするようにして、最終的にはすべての領域と任務において“兵士から将軍まで”の機能を実現することを目指しています。例えば、地上や航空機の中にいる人を対象とした man-in-the-loop シミュレーションから、計画立案室で戦略ゲームを検討している将軍向けまで、様々な用途が考えられます。

Colliander 氏は、”NOR”という名前は、工学で使われるNOTとORの論理ゲートの略語に由来していることを教えてくれました。これらの論理ゲートは、組み合わせることであらゆる問題を解決することができます。「NORは、あらゆるタイプのシミュレーションに対応できる環境にしたいと考えています。機能的な物理エンジンとリアルなレプリカがあれば、例えば、戦車や地上の人間を戦闘機と同じように簡単にシミュレーションすることができます」

MISが最初のユースケースとして戦闘機を選んだ理由は、シミュレーションを用いたトレーニングの中でもより複雑なアプリケーションのひとつであると考えているからです。Colliander 氏は次のように述べています。「これだけの機能を備えた完全なシンセティックな戦闘機シミュレータができれば、ほとんど何でもできるようになります」

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