Image courtesy of CAE Inc.

CAE が次世代のフライト シミュレーターのために Unreal Engine を導入

2022年11月23日
航空トレーニング業界の大手企業 CAE は 75 周年を祝っています。世界中で契約を獲得し、年間売上高が 30 億ドルを超える CAE は、民間航空、防衛/セキュリティ、医療業界向けの最先端のトレーニング ソリューションのプロバイダーとして、ビジネスを順調に展開しています。

CAE はもともと航空無線業界の企業でしたが、フライト シミュレーターのビジネスへの参入を急速に進めました。数十年後にはトレーニング ネットワークをそのポートフォリオに加え、現在では CAE の売上の 60% 以上はトレーニング サービスの提供によって得られています。

CAE のテクノロジーおよびイノベーション担当バイス プレジデント、Marc St-Hilaire 氏は次のように述べています。「トレーニングの事業を始めてから、トレーニング デバイスの忠実度と没入感を改善するための絶え間ない取り組みを続けています。没入感が高まるほどパイロットのエクスペリエンスが向上し、実際に航空機を操縦していると信じられるようになります」

CAE はフライト シミュレーターの開発方法の改善を続け、忠実度を高めるだけでなく、開発期間の大幅な短縮にも取り組んでいます。「そのためにグローバルのサプライチェーンを活用し、市販の電化製品、コンピューター、モーション システム、プロジェクターなど、原価の要素となるものを入手しています」と St-Hilaire 氏は述べています。

Unreal Engine の導入

既製のコンポーネントを導入するなかで、CAE は次世代のビジュアル ソリューションのソフトウェア プラットフォームとして Unreal Engine を新たに利用することを決めました。
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「ビジュアル システムの観点からは、Unreal Engine のテクノロジーは大きく進歩してきました。そのおかげで現状があります」と St-Hilaire 氏は述べ、Unreal Engine がシミュレーション業界に参入した 10 年前のことを次のように振り返っています。

「当時は、一部分をトレーニングするためのツールと低レベルのタスクをトレーニングするためのツールを開発するために、ゲーム エンジン、FPS、戦術トレーニングが使われていました。すぐに使えるシステムが 1 つのパッケージになっている、革新的なものでした。ツールとしての開発環境と、独自のソリューションを配布する手段を手に入れることができました」また、Unreal Engine のコンテンツとコミュニティのエコシステムもシミュレーション業界にとっては画期的なものだったと述べています。

St-Hilaire 氏によると、それ以来、ゲーム エンジンのテクノロジーが発展し、GPU の性能も向上し、シミュレーション ソリューションを構成するその他の要素も改善されてきました。その結果、説得力のある効果的なトレーニング ソリューションを作り出すためにシミュレーション業界が対処していた課題の多くが解決され、距離が離れていても正確に解決できるグローバル座標、低遅延、高い品質のグラフィックスなどを利用できるようになりました。

シミュレーションにおける遅延の解消

St-Hilaire 氏は、フライト シミュレーターとクローズド ループ制御の比較を通じて、シミュレーターにおける低遅延の重要性を説明しています。クローズド ループ制御では、訓練を受けるパイロットは操縦桿に力を加え、さまざまな感覚を体験します。「パイロットは身体を通じて動きを知覚します。目を通じて、自分がどこにいてどこに向かっているのかを知ります。内耳は加速と回転を感じとることができます。触覚は力のフィードバックを提供します。そうしたループは非常に繊細なものです。ループに少しでも遅延があると、感覚が正確でなくなります。これはシミュレーションされる機体のパイロットによる制御に影響し、総じてパイロットがエクスペリエンスとのつながりを感じられなくなってしまいます」

St-Hilaire 氏によると、遅延は非常に重要な問題であるため、業界への規制としてあらゆる遅延に 90 ミリ秒という上限が定められています。この制限は、パイロットによる制御、ビジュアルの表示、その他のデータ転送や計算のすべてに適用されます。

「私が戦闘機のシミュレーターで共同のトレーニングをしているとしたら、別のシミュレーターを操作している編隊僚機の操縦士には私と同じものが見えている必要があります。私が何かを撃墜したら、2 人が同時にそれを目にしていなければいけません」と St-Hilaire 氏は述べています。

St-Hilaire 氏によれば、これは、トレーニングのためのシミュレーションがイマーシブ、リアル、効果的であるには、シミュレーター自身の遅延と同様にネットワークの遅延も重要だということを意味します。

標準化への道のり

およそ 15 年前に、CAE は開発方針を変更し、市販の GPU とドライバーを利用することにしました。それ以来同じ方針に従ってパイロットのためのビジュアルを作り続けています。これもビジュアルを自身で作成するプロセスにおけるテクノロジーの変化の一例だと St-Hilaire 氏は指摘します。
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フライト シミュレーターを開発し始めた当初は、CAE のフライト シミュレーター向け画像ジェネレーター チームは ASIC と FPGA を使っていました。「当時は 1 フレームあたり 6,000 ポリゴンをレンダリングするのがパフォーマンスの上限でした。市販の GPU に切り替えた際に、ASIC の設計と FPGA のプログラミングから OpenGL の標準に基づくソフトウェア スタックに移行しました」

それ以来、重点はポリゴン数から画像の品質へと移ったと St-Hilaire 氏は述べています。画像の品質はロードマップと GPU に密接に関係していました。GPU の性能は毎年向上していき、CAE は最適化よりもコンテンツを重視できるようになりました。
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現在 CAE では、大規模で詳細な領域を迅速に開発するために、衛星画像とテレインについてのデジタルのデータ ソースを広く利用しています。それを可能にした転機は 2016 年に訪れました。それまでは GIS データについて各社が独自のフォーマットを使い、そのフォーマットは画像ジェネレーターのアーキテクチャと密接に結び付いていました。一方で、顧客からはシミュレーターの相互接続の改善が強く求められていました。

2016 年に、相互運用性を確保するために、Open Geospatial Consortium® が CDB フォーマットをシミュレーション向けの標準 GIS フォーマットとして採択しました。St-Hilaire 氏は、この標準化はシミュレーターの進化における重要なできごとであったとともに、この分野における CAE の発展の契機ともなったと述べています。

ProdigyTM 画像ジェネレーター

CAE はすでにこの分野で成果を上げ始めています。2021 年 11 月には、新しい画像ジェネレーター (IG) Prodigy を発表しました。Prodigy はそれまでの仮想環境よりもはるかに多くのエンティティをサポートします。ほかにも、Unreal Engine による極めてリアルな仮想環境、AI と DirectX、OpenFlight、OGC CDB などの業界標準のサポート、小さなフットプリント、最大 8K のプロジェクターとの互換性、最高水準のサイバーセキュリティなどの特長があります。
 

Prodigy は、組み合わせることができる既存のハードウェアとソフトウェアのソリューションを活用してシステム間のシームレスな相互運用を可能にするという、CAE の方針に従って開発されました。「すでに解決済みの問題に CAE が取り組む、いわゆる車輪の再発明をするのは合理的ではありません。利用できるものは利用して先に進むべきです」と St-Hilaire 氏は述べています。

St-Hilaire 氏は、CAE が次世代のシミュレーターで Unreal Engine を活用していく今後について期待を寄せています。「これからも Epic Games の友人たちやすべての協力者とともに、シミュレーションのコミュニティの問題解決に取り組んでいきます。このコラボレーションを通じて、航空分野のトレーニングにおける目標の達成に近付き、さらにその先に進むことができると考えています」

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