Image courtesy of Engine House

Engine House がリアルタイムのワークフローでアニメーション短編映画 Wylder を制作

Ben Lumsden |
2021年8月11日
小規模なチームが在宅勤務の体制を守りながら 3 か月未満でアニメーション短編映画を制作するのは至難の業です。しかし、コーンウォールのとあるスタジオは、まさにそれを実現しました。Maia Walczak 氏による子ども向けの言葉のない本、Wylder を原作とするこの映像作品は、最終的な映像全体が Unreal Engine でレンダリングされています。
 

Engine House の物語

すべては犬のせいです。もし、新しく飼い始めたハンガリアン・ビズラの仔犬、ヘンドリックス (別名スムー) の面倒を見る必要がなかったなら、Mike Richter 氏は、今でも雇われの身で建築ビジュアライゼーションの仕事をしていたかもしれません。Zoom (ズーム) という言葉が、単にカメラワークのことを意味していた 2008 年の当時、家で働くということは、起業することでした。

また、それは、どのような仕事であれ、来たものは引き受けるということを意味してもいました。その経験が Richter 氏を「超ジェネラリスト」へと変え、創業したばかりだった会社、Engine House を、2D と 3D のアニメーション、VFX、イマーシブなエクスペリエンス、マーケティング コンテンツのサービス全体を扱うスタジオへと発展させました。

Richter 氏は、イングランド南西端の美しい沿岸地域、コーンウォールに引っ越したばかりでした。コーンウォールは、将来仲間となる Jason Robbins 氏にとっても、心の琴線に触れる場所でした。Robbins 氏は当時、ロンドンを拠点とする広告会社がシカゴに構えたサテライト スタジオの責任者を務めていました。2 年後にイギリスに戻った Robbins 氏は、フリーランサーとしてロンドンで働き、子ども向けのさまざまなアニメーション シリーズの仕事をしていましたが、自身が子ども時代を過ごしたコーンウォールに引き寄せられていました。

気が合う同業者を探していた Robbins 氏が Richter 氏に連絡を取り、2 人は共通の考えを持っていることがわかりました。それは、夜遅くまで働くよりも効率を追求し、ワークライフ バランスを維持しながら良い仕事をしたい、ということでした。Robbins 氏は Richter 氏と運命を共にすることを選び、2013 年に Engine House の共同オーナーになりました。

それからほどなくして、Natasha (Tash) Price 氏が加わりました。12 歳のときにコーンウォールに移り、暮らした経験のある Price 氏は、ロンドンで映画制作の学位を取得しようとしていたころ、Engine House がスタジオを拡大するために人材を探していることを知りました。学んできたことに関係するキャリアを、自分が故郷と呼ぶ場所でスタートさせるチャンスを活かし、Price 氏はすぐに、チームにとって 3 人目のフルタイム メンバーとなりました。 
L to R: Tash, Mike, Jason, and Whinnie, Jason’s daxi
それからの 5 年間に、3 人は、才能豊かなフリーランサーの集団の力を借りて、多様なプロジェクトに取り組みました。さまざまな広告、アサシン クリード クロニクル チャイナアサシン クリード クロニクル インディアアニメーションのカットシーン、エクセター大学の天体物理学者の協力を得て作られたイマーシブな 360 度ビデオChannel 4 の Random Acts プロジェクトの一貫として Price 氏が監督を務めた自社作品の短編アニメーション映画、The Ship などを制作してきました。

Unreal Engine の導入

Engine House のチームは、しばらく前から Unreal Engine に注目していました。そのきっかけとなったのは、Rebirth でのリアルタイムのレンダリングの品質に感心したことでした。Rebirth は、現在では Unreal Engine の一部となっている Quixel Megascans のライブラリを紹介する短編映像です。Engine House のチームは、Rebirth のショットがどのように作られたかを解説するチュートリアル シリーズをすぐに観て、このテクノロジーには将来性があると判断しました。

それからパンデミックが訪れ、自宅待機が明けたあと、最初のロックダウンがもたらした数か月におよぶ静かな時間を迎えた Engine House のチームは、その時間を活かして Unreal Engine について学習することを決め、社内プロジェクトのトレーラーを作成することにしました。

「最初はとても混乱して、使い慣れた快適な 3D ソフトウェアに戻りたいと思うこともありましたが、我慢しているうちに、Unreal Engine を使うのが楽しくなりました」と Robbins 氏は述べています。

しばらく時間をかけてソフトウェアに慣れたチームは、The Ship 以来 5 年ぶりとなる短編映像の制作に取り組み、今回は Unreal Engine を使うことにしました。Richter 氏は子どもと Wylder を読んでいて、その美しいイラストのスタイルと、興味深いコンセプトに惹きつけられていました。Wylder は、少年と父親が野外のすばらしさを発見する、シンプルでありながらとても強力な物語です。チームのほかのメンバーも、Wylder がすばらしい作品であり、伝えたい作品であるということに同意しました。
本を短編映像化する許可を著者から得てから、Engine House のチームは野心的な 3 か月を過ごし、自己資金でプロジェクトを完成させました。その経験を記録するために、Price 氏は公開制作日誌を付けました。Price 氏は物語に貢献するだけでなく、しばしば制作のコーディネーターやプロデューサーの役割を担っています。

Wylder の制作

幸いにも、Engine House のチームはオリジナルのイラストを利用することができました。それらをスキャンして Premiere でアニマティックにすることで、ストーリーの展開、シーン間の切り替え、ペースについてアイデアを得ることができました。
Image courtesy of Engine House
次に、Unreal Engine 内でルックデブのテストを行いました。重要な要素の一部について、Richter 氏が 3ds Max、Mudbox、ZBrush でモデルを作成しました。また、VR ペイント ツール Tilt Brush で実験を行い、木や草などの有機的な要素について、感覚をつかむことができました。

こうした主要なアセットについては、本の中の実際のイラストを利用して Unreal Engine 内でテクスチャを作成し、それからシーンのライティングに移りました。Richter 氏は次のように述べています。「それぞれのライトが深みとテクスチャを加え、前景と背景の要素を際立たせることができます。これによって、グラデーション、バリエーション、ボリューメトリック ライトや色の明るい領域を加えることができます。本のような感覚を得るために、ライトを使って絵を描いているような感覚です」
 
Sequence courtesy of Engine House
次に 3D のブロックアウトを行いました。Robbins 氏は、まず当初の Premiere のアニマティックを Unreal Engine にエクスポートして、シーケンスの構造を作成しました。Premiere と Unreal Engine の間でほぼリアルタイムの接続を維持できたので、たとえば Premiere でショットを取り除くと、Unreal Engine の側が自動的に更新されました。Unreal Engine で編集を行った場合は、EDL をエクスポートして Premiere に戻し、Premiere での編集を更新できました。

次に Robbins 氏は、アニマティックに照らし合わせて、主なアクションの計画を立てました。その際、キャラクター、プロップ、環境を表現するために 3D のプリミティブを使いました。これによって、最終的なアクションで使われるカメラのアングルを決めることができたほか、世界の規模を理解できました。

実際のアセットが主に Richter 氏の手によって完成したら、プリビジュアライゼーションの要素を 1 つずつ置き換えました。環境のためにはメインの 3D シーンと背景の平らな要素を合わせて作成し、奥行きがあるような錯覚を生み出しました。

その間、チームはルック デベロップメントに取り組み続けて、鉛筆で描いたようなハッチングをシミュレートする無料のポストプロセス マテリアルを試しました。この 2D エフェクトに関連して発生した問題の 1 つに、キャラクターが移動するとサーフェスがハッチングの下で滑っているように見えて気が散る、ということがありました。この問題に対処するために、ハッチングの位置をフレームごとにランダムに変更してみましたが、それも気が散る結果になったので、最終的には、ハッチングの位置を 2 フレームごとに移動させ、キャラクターの位置に合わせることにしました。
 
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Price 氏は次のように述べています。「これは継続的なルック デベロップメント プロセスの一貫です。Unreal は継続的なルック デベロップメントに非常に優れていることがわかりました。リアルタイムで制作できることにより、効率が上がるだけでなく、実践を通じてクリエイティビティを発揮しやすくなります」 

キャラクターの作成

メイン キャラクターである少年、父親、鹿、猪の家族のモデリングが完了したところで、ヘア、ファー、衣服の最終的な仕上げを行いました。フリーランサーの Andrew Krivulya 氏が、Maya 用のプラグイン Ornatrix を使用してグルームを作成しました。Krivulya 氏はさまざまなチュートリアルの執筆者で、その中には、Unreal Engine 向けのヘアの作成に関するものも多数あります。作成したグルームは、Unreal Engine のストランド ベースのヘアとファーのシステムに渡されました。それから Engine House のチームがテストを行いました。ウェインズ・ワールドからインスピレーションを得た楽しいものもありました。鹿の描写の品質を保つために、ストランドを非常に太くして、鉛筆の線のように見せていました。
Image courtesy of Engine House
Price 氏は次のように述べています。「この作品のキャラクターにとってはヘアが重要です。顔のパーツがとても小さいので、演技の大半は、眉毛と父親の髭の動きによって行われます。メインのキャラクターはどちらも、思いやりがあり、あたたかく、感情に訴えるものである必要があります。セーターのテクスチャや父親の髭に混じった白いものなど、微妙なディテールを加えて、キャラクターを生き生きとしたものにしています。父親が着ているセーターがモコモコしていなかったら、どの程度いい人なのかわかりづらくなってしまいます」
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次に、Robbins 氏が Maya でキャラクターのリグとアニメーションを作成しました。親子の小さな目のために、本から 2D のシェイプを取得して、その 3D バージョンをモデリングし、ブレンド シェイプとして使用しました。口のリグにはボーンを使いました。
 
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最終的な映像の Unreal Engine からの出力

ようやくすべてを組み合わせるときがきて、アニメーションを環境に取り込み、最終的なカメラ、カラー グレーディング、ポスト エフェクトを追加しました。その作業はすべて Unreal Engine 内で行われました。「これは調整の段階で、仕上げをほどこす最後のチャンスであり、品質の最後の 10% を加える過程です」と Price 氏は述べています。

 
Sequence courtesy of Engine House
検討を重ねた結果、従来のアニメーションのような雰囲気を強めるために、24 fps ではなく 12 fps でレンダリングすることにしました。最終的な映像を出力する際には、クレジットとフェードに使うものを除いて、ほかのソフトウェアは不要でした。「画像シーケンスを UE4 でレンダリングして、それをそのまま mp4 にしました」と Richter 氏は述べています。

リアルタイムのコラボレーション環境によるクリエイティビティ、柔軟性、効率の向上

複数の人がどこにいても同時にプロジェクトの作業を進められるようにするために、Engine House のチームは、Amazon の EC2 サービスを使って独自のクラウド サーバーをセットアップし、Perforce のバージョン管理システム Helix Core と合わせて使用しています。そのサーバーが Unreal Engine のレベル シーケンスとサブシーンのシステムとどのように連携するかについて、Robbins 氏は次のように説明しています。

「1 人があるショットのライティングのシーケンスを編集しているときに、別の人がアニメーションやカメラに手を加えることができます。両者がファイルを更新してチェック インすると、すべての変更が適用された完全な最新バージョンが全員に届けられます。ショットについて作業をしていて、問題を見つけたら、Skype で Mike に知らせることができます。Mike が自分の側でそのショットに変更を加える間、私は作業を進めることができ、Mike の作業が終わったら Skype で連絡をもらい、最新のファイルを取得します。すると私のプロジェクトが修正されます。Unreal から離れる必要はありません」
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このような効率化のおかげで、Engine House は元々厳しかったスケジュールよりも 1 週間早くプロジェクトを完成させることができました。Price 氏は次のように述べています。「スタジオとして、厳しい締め切りに向き合ってきた経験はたくさんあり、効率を最大化するためのワークフローを作り出してきました。パフォーマンスを維持しながら高いクリエイティビティを発揮できることが、Unreal に移行した主な理由です」

完成品に近い品質の画像をごく初期の段階で見ることができれば大きなメリットがあるということは、すでにわかっていました。「私たちは Octane による GPU レンダリングのアーリー アダプターで、ベータ版のころから使っていました。私たちのパイプラインでは常に、プロジェクトのごく初期から洗練されたレンダリングを得ることを目指してきました。ほとんど概念実証のようなもので、モデリングのスタイル、マテリアル、ライティングなどについて、アセットを作成するずっと前に質問することになります」と Richter 氏は述べ、さらにこう続けます。
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「スピーディなイテレーションに役立ち、クリエイティブ面での成果に大きな影響があります。柔軟性が向上し、調整中に良い偶然が起きることもあります。Unreal Engine によってレベルが上がり、シーケンサーですべてを一度に見ることができるようになりました。通常はこれは別のプロセスとなり、何かを変えるには手遅れになっていることもよくあります」

Robbins 氏は別のメリットを挙げています。「1 つのパッケージで多くのことが可能です。ショットをセットアップしたら、クリエイティブのビジョンを柔軟に実現できます。ほかのプログラムを開いておいて、外部のアセットをレンダリングしたりインポートしたりする必要はありません」

また、Robbins 氏は、すべてのショットを 1 か所にまとめておくことができ、シーンごとにファイルを開く必要がない点も評価しています。「Unreal Engine は、ノンリニアの編集パッケージのダイナミズムと、タイムライン内のシーンを実際に操作するパワーを兼ね備えています」

ノンリニア コンテンツを作成するために可能となるルックの種類に関しては、Unreal Engine は非常に柔軟性が高いことがわかりました。Robbins 氏は次のように述べています。「シネマトグラフィ ツールセットは、明らかに現実世界での撮影を念頭に作られています。モーション ブラー、グレイン、グレーディング、露出の制御は非常に強力です。さらに、どのようなスタイルのビジュアルにも適応できます」 
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今後の展望

今年になって、Engine House は Epic MegaGrant を獲得しました。Epic Games は、リアルタイム レンダリングを使ったアニメーションの分野での Engine House のすばらしい成果について知り、チームが独自の IP を制作することを支援したいと考えました。Engine House は将来的には独自 IP により多く取り組むことを望んでいます。

「映画やテレビで、やりたいことがたくさんあります。さまざまな開発プロジェクトがさまざまな段階にあります。子どもや若者の思考を刺激する物語を作り、わくわくさせるような新しいプラットフォームでリーチしたいと考えています」と Richter 氏は述べています。

Price 氏は次のように述べています。「当然ながら、金銭的な投資は非常に価値があるものです。アニメーションでは、開発の初期段階でアセットを作成しスタイルを決めるために大きな出費が必要となるので、なおさらです。ただし、Epic のチームとの関係は、資金提供だけに留まりません。有益な会話、アドバイス、紹介を通じて、さまざまな形でサポートを受けています」

スタジオの将来における Unreal Engine の役割について、Robbins 氏の意見は明確です。「特に指示がないかぎり、デフォルトとしてすべての仕事に Unreal Engine を使っていくつもりです。今までのやり方でこれを作っていたら、どれほどやり取りが多くなっただろう、とたびたび話しています。特に、フィードバックやクライアントによる変更を扱うときには大きな違いがあります。コメントの一覧を見ながら、1 つのソフトウェアですべてに対処できることで、スピードが大幅に向上します」

メディアの限界を押し広げようとするスタジオにとっては、もう 1 つ期待できることもあります。

Robbins 氏は次のように述べています。「将来的には、Unreal Engine のリアルタイムの側面をもっと示していくことができればいいと考えています。今は最後に画像シーケンスをレンダリングして動画ファイルを作成していますが、VR ヘッドセットを装着するだけで私たちが制作している映像の中に入り込み、リアルタイムで体験できるとしたら、アセットや Unreal で作成した成果をより活用できるようになります」
Image courtesy of Engine House

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