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Unreal Engine の ICVFX 技術を用いて Netflix シリーズ静かなる海で月を再現した方法

2022年9月27日
SF ミステリー スリラーである Netflix シリーズの静かなる海は、印象的で超現実的な空間を再現したことにより広く評価されています。静かなる海は、イカゲームなどの成功した韓国のヒット作に続き、Netflix の非英語コンテンツの週間トップ 10 リストでも 1 位になりました。韓国にある VFX スタジオで、既存のパイプラインを大胆に超える体制を作っている Westworld が、この作品の見事なビジュアルの実現を支えています。静かなる海は Westworld にとって初めての Unreal Engine プロジェクトではありませんでした。しかし、同作品では、初めて LED ウォールを使用したインカメラ VFX (ICVFX) を採用しています。このシリーズでは、舞台である宇宙空間の月面のリアルさが絶賛されています。
 

高品質な月面でシーンをより没入感のあるものにする

Westworld は、Unreal Engine のバーチャル プロダクションで別の Netflix シリーズ Sweet Home の品質向上に成功した経験があることから、同エンジンの実力を十分に認識してます。そのため、この挑戦的なプロジェクトでも Unreal Engine の活用を決定しました。

この SF スリラー ドラマは、水が枯渇しそうになっている世界滅亡に瀕した近未来の地球、宇宙、月という韓国ドラマで今までにない挑戦的な舞台設定となっています。このシリーズで登場するさまざまな没入感のある未知の宇宙空間をリアルに生成するため、Westworld は 30 平方メートルの月面セットを作成し、撮影前に仮想環境と接続するために LED ウォールを使用しました。Unreal Engine の ICVFX ツールセットにより、物理セットと仮想セットの両方をシームレスにブレンドすることが可能になりました。
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Westworld のプロダクション パイプラインで Unreal Engine を使用して品質と生産性の両方が向上

Westworld は、以前は大規模な環境の作成、外観の開発、ライティングおよびレンダリングが得意なプログラムである Clarisse で広大な環境を作成していました。静かなる海では環境全体を 3D で実装する必要がありました。しかし、Clarisse を用いる場合、無数の 3D アセットを配置してレンダリングするために多くの時間とリソースが必要でした。加えて、レンダリングが完了するまで実際の結果を見ることができません。このような制限を解決したいと考え、スタジオは Unreal Engine をプロダクション プロセスに取り入れることにしました。これにより、制作中の環境のプレビュー、最終的な作品の品質の向上が実現しました。
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Westworld の環境作成パイプラインを変更
最初に、Westworld は月面用の 3D アセットとテクスチャを Unreal Engine にインポートし、レイアウトとライティングに取り組みました。次に、Unreal Engine 内で作成した環境をシーケンサーを介してレンダリングしてプレビューを行い、最終的なレイアウトとライティングを調整を行いました。

Unreal Engine でデータをクリーンアップした後は、Clarisse で VFX 作業用の最終的なレンダリング イメージを作成しています。これを行うため、Westworld は自社独自の Unreal Engine プラグインである L Exporter を使用してそれらプラットフォーム間で正確な設定を送信しました。L Exporter は、Unreal Engine のスタティックメッシュ、トランスフォーム、ライティング、属性データを Clarisse のデータと一致するように XML 情報を生成するプラグインです。プラグインと Unreal Engine をパイプラインに追加することで、Westworld は以前の環境作成作業と比較して全体プロセスの時間とコストを大幅に削減することができました。また、より短期間でより多くのクライアントのニーズを反映できるようになり、最終プロジェクトの品質も向上しました。

現実世界とのつながりを幅広くサポートする Unreal Engine の実力

Westworld は、彼らが取り組んだ他のどのプロジェクトよりも、とりわけ静かなる海で Unreal Engine の機能が役立つことがわかりました。「Unreal Engine では柔軟なクリエイティブ環境が用意されており、ブループリントと C++ で L Exporter といったようなプロダクション プロセスを完了するのに必要なプラグインと機能を簡単に開発、適用およびカスタマイズできます」と、Westworld の研究開発部長 Joo Young Lim 氏は語ります。「さらに、Unreal Engine のスケーラビリティはすばらしく、現実世界と幅広く接続可能で、サポート機能も備えています」

ICVFX プロダクションの現場では大量のハードウェアが必要となるため、プロジェクトに加えた小さな変更がすべてのデバイスに影響を与える可能性があります。したがって、時間とコストの損失を防ぐにはシステム全体の管理が極めて重要となります。

Unreal Engine 4.26」で追加された Switchboard は、これらの問題を防ぐのに大いに役立ちます。Switchboard を使用すると、これまで手作業で行っていた反復作業をワンタッチで実行できるようになります。レンダリング マシンの追加と変更、プロジェクト バージョンの確認と同期、ハードウェア間の同期状態の確認、テイク レコードの管理などを一元管理できるためです。

「これらすべてを一元的に管理できるので、より多くの時間を撮影に割けるようになりました」と Joo Young 氏は言います。また、ICVFX だけでなく、仮想カメラを使用したリアルタイム プレビズの実装も可能です。これは、VRPN、DMX、OSC などのさまざまなプロトコルを介してハードウェアをリアルタイムで接続する Unreal Engine の Live Link で可能となりました。
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Switchboard
加えて、リアルタイム編集環境の「マルチユーザー編集」機能と「カラー補正領域」機能により、スタジオは多くの時間を節約できました。この ICVFX の撮影では、30 平方メートルの物理的な月面セットと Unreal Engine で作成された仮想月面セットをシームレスに接続することが重要でした。物理セットのテクスチャと色は、ライティング、カメラの位置、設定によって変動します。この際、スケジュールが非常にタイトで物理的にこのような変動に対応することが不可能だったため、スタジオは物理セットと仮想セットの間の接続を撮影中に継続的に編集する必要がありました。しかしながら、Westworld のプロのカラリストは、こうしたタイトなスケジュールにもかかわらず、時間通りに撮影を完了することができました。Unreal Engine では、現場でライティングやカメラを変更したりといったような、アセットのリアルタイムでの編集と適用が可能だったためです。
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マルチユーザー編集とカラー補正領域を使用して LED ウォールをリアルタイムで編集
Westworld は、Unreal Engine の機能のうち、現実世界との接続を可能にするものだけでなく、他にも多くの機能が役立つことを発見しました。「Unreal Engine 4.27 で追加されたレベル スナップショット機能により、レベル バージョンの制御や復元などのタスクを Perforce サーバー メソッドを使用した既存の制御方法よりもはるかに直感的に実行できるようになりました」と、Joo Young 氏は語ります。「バージョン管理や復元を行う際によく発生する間違いを、各レベルにあるサムネイルとコメント機能で効果的に防止することができました」

また、マルチ GPU を使用した GPU ライトマスによりビルド時間が数時間から 10 分未満に短縮され、ライティング時の確認も容易になりました。「その場でライティングの変更が可能だったので、とても便利でした」と Joo Young 氏は言います。

「Unreal Engine のパワフルな柔軟性とスケーラビリティは、オープン開発環境、カラー補正領域、マルチユーザー編集などの機能によって特徴づけられていますが、これは静かなる海のプロダクション パイプラインに大きな違いをもたらしました」と、Joo Young 氏は語ります。

ライティング、カメラの位置、設定に応じたテクスチャと色に関して、スタジオは現場でアセットを即座に編集して適用することができました。また、監督、撮影監督、スーパーバイザーを含む制作チーム全体が、その場で議論を行ったり決断を下したりすることも可能でした。従来の方法だと、グリーン スクリーンの撮影、ポスト プロダクションの実行、長い時間を要するレンダリングが終わった後に、はじめて結果を確認できるようになります。Unreal Engine の ICVFX 技術の場合、その場で結果を確認して改善できるため、パイプラインにおけるリアルタイム作業に変革をもたらしました。
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Unreal Engine で M&E プロダクション パイプラインを変革

Westworld は Epic Games が MetaHuman、Unreal Engine 4 および Unreal Engine 5 のパワフルな製品ラインアップにより、M&E 業界のプロダクション パイプライン全体に大きな変化を引き起こせると期待しています。「Unreal Engine は、従来の DCC ツールとは比べものにならないぐらい軽快に動作し、完成度もあるので、大規模な環境作成では大きな違いが生まれると思います」と Joo Young 氏は語ります。現在、スタジオは Unreal Engine を用いた大規模な環境と群衆のプリプロダクションに取り組んでいる他、他の ICVFX プロジェクトにも参加しています。

Westworld は、独自の制作物を Unreal Engine に移植するためのパイプラインの構築や、USD を使用した Unreal Engine と DCC ツール間のデータ共有ワークフローの構築など、Unreal Engine のさまざまな用途について研究開発を続けています。これからも、チームの創造性と Unreal Engine の力を組み合わせて一流の VFX と高品質の作品を作成することで、限界に挑戦し続けます。Westworld の最新ニュースは、公式ウェブサイトFacebook でご確認ください。

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