Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC

Pixomondo がバーチャル プロダクション ベースでサッカーのコマーシャルを制作

2022年10月12日
ハリウッドの黄金時代には、映画監督が 1 つのシーンのために群集を必要とすれば、生身の俳優を呼び集める必要がありました。たとえば、ベン・ハーの有名な戦車競争のシーンでは、8,000 人のエキストラが競技場を埋め尽くし、叫び声を上げました。グラディエーターが公開されるころには、CG を使って闘技場に人を配置できるようになっていました。生身の人間を使う方法は、コストがかかり、手配の手間もかかります。一方、CG を使うには、デジタル アーティストが長い時間をかけて働く必要があります。

コマーシャルなどを撮影する場合、ベン・ハーほどの予算はありません。スタジアムを借り切って数百人、あるいは数千人のエキストラを雇うことはとてもできません。ポストプロダクションに長い時間をかけるという選択肢はありますが、それもあまり明るい気持ちにはならないでしょう。

幸いなことに、今では、現実の人間と見分けがつかない CG の群集をごくわずかの時間と費用で作り出す方法があります。

先日 Caledon Football Club のコマーシャルを作成することになった Pixomondo (PXO)、alter egoWilliam F. White International (WFW)、Virtual Production Academy (VPA)は、LED ボリュームとバーチャル プロダクションのワークフローを使い、品質を維持しながらコストを削減する方法を示しました。

LED ステージでのスロー モーション

叫び声を上げる群集を作りたいなら、David Whiteson 氏が適任です。alter ego で VFX 責任者を務める Whiteson 氏は、業界でコンポジターとして 26 年間働いてきました。必要に応じてディレクターの役割を担うこともある Whiteson 氏は、Caledon Football Club のコマーシャルの共同ディレクターを務めました。

このプロジェクトで Whiteson 氏のチームが克服する必要があった最大の技術的課題の 1 つは、フレーム レートに関するものでした。速いスピードで撮影を行うと、LED 画面でちらつきが生じることがあります。

なぜそのような高いフレーム レートで撮影する必要があったのかというと、コマーシャルの主役のキャラクターがバイシクル キックでゴールを決めるシーンで、時間がゆっくり流れるようにするためでした。スロー モーションの映像は、高いフレームレートで撮影され、低いフレームレートで再生されます。
 
Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC

「私が知るかぎり、このコマーシャル以前には LED ステージでスロー モーションを実現した例はありませんでした。LED ウォールで 48 fps などの高いフレームレートを使うと、カメラでスキャンラインが見える可能性が高くなります。ただし、これは LED パネル、カメラ、カメラの動きに左右されます。 最適な結果を得るために、3 台のカメラでさまざまなフレームレートを使ってテストを行いました。LED ウォールの側では 24fps と 48fps を試しました」

最終的には、200fps に対応し、ちらつきが最も少なかった Alexa Mini を使うことになりました。「Phantom 以外のカメラではセンサーでクロップする必要がありました。200fps でも、800fps まで遅くする必要がありました」と Whiteson 氏は述べています。

ちらつきのほかに、群集のシミュレーションをオリジナルの 24fps よりも遅い速度で実行する必要があることがわかりました。最初のテスト撮影を行ったところ、群集に動きに 200fps のカメラ スピードに耐えるだけの情報量がないことがはっきりしました。そこで、スピードのバリエーションに応じた各種の CG の群集をあらかじめ作成しました。どの瞬間でも、撮影しているフレームレートに応じてアニメーションの 1 つを直ちに有効にできるようにしました。

「ボタンを 1 つ押すだけでさまざまなアセットを読み込むことができるのは、Unreal Engine を使う大きなメリットの 1 つです」と Whiteson 氏は述べています。

映画およびテレビ向けのデジタルで 3D の群集

コンポジターである Whiteson 氏は、スタジアムを埋めるために 3D の群集を複製または生成するよう求められることがよくあります。Whiteson 氏によれば、これは時間がかかり難しい作業です。「決まって手間がかかる仕事です。トラッキング、キーイング、ロトスコーピング、ショットの要素のクローン、雰囲気との調和などの作業があり、年に 4、5 回くらいは依頼があります」
 
alter ego のチームは、コスト効率に優れたソリューションをクライアントに提供したいと考えていました。具体的には、自由に、クリエイティビティを発揮してストーリーを告げることができるソリューションです。また、群集の作成後には大きな影響が生じることがよくありますが、そういったこととは無縁のものです。
 
その解決に取り組んだのは PXO でした。PXO は国際的に活動している視覚効果とバーチャル プロダクションの企業であり、これまでにさまざまな賞を獲得しています。今年の前半には、HBO のテレビ シリーズ、Winning Time: The Rise of The Lakers Dynasty のために、VFX を利用したショットを 700 以上完成させていました。

想像のとおり、その仕事の 90% 以上は CG のスタジアムと群集のシミュレーションに関するものでした。PXO のチームは、3D の群集を作成するための迅速かつ効率的な方法に対するニーズがあることを把握しました。映画とテレビの業界では、「迅速かつ効率的」といえばゲーム エンジン テクノロジーの利用を指すことが珍しくありません。そこで、PXO のチームは Unreal Engine で群集を操作する柔軟性の高いツールを開発しました。これはリアルタイムで動作するだけでなく、LED ボリュームで使用することもできました。

Caledon Football Club のコマーシャルの仕事に取り組むことになったとき、alter ego と PXO は、この新しいツールを試し、限界を見極める必要があると考えました。

Pixomondo のチーフ イノベーション、チーフ クリエイティブ オフィサーである Mahmoud Rahnama 氏は以下のように述べています。「PXO と alter ego はこれまでに数個のコマーシャルで協力してきました。PXO が HBO の Winning Time 第一シーズンの制作を終えた後に、私は従来の手法を使った VFX 群衆シークエンスの制作が大変だったという話を David にしました。すると、彼は、LED ウォールで高フレームレート撮影を試みるという課題について話してくれました。そこで、協力して一石二鳥を目指すことにしました!」
 

コマーシャルの舞台は満員のサッカー スタジアムです。群集のテストには最適の環境と言えるでしょう。叫び声を上げるファンの前で、少年が敵チームのプレイヤーたちをかわしながら進み、ゴールを決めます。ファンは CG ですが、それには気がつかないでしょう。スタジアムと 18,000 人のリアルタイム群集エージェントはすべて Unreal Engine で生成されました。

現実の群集は極めて複雑です。ゴールに歓声を上げたり、レフェリーのおかしな判定にブーイングしたり、群れとして一斉に動くこともあれば、それと同時に、友人に話しかけたり、ポテト チップスに手を伸ばしたり、一人ひとりが特徴的な動きもしています。

PXO が開発したシステムを使用すると、この複雑さの本質をつかむことができます。リアルタイムでキャラクター、LOD、ジャージ、行動、密度を変えたり、群集にウェーブを行わせたりすることができます。これは始まりに過ぎません。ツールのインタラクティブ性を向上させ、群集がボリューム内の生身の俳優に従ったり、スコアに反応したり、ボールを追ったりすることができるようにしようとしています。
Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC
PXO の群集システムは、Unreal Engine による効率的なスタティック メッシュのインスタンス化を活用します。すべてのアニメーションはボーン アニメーション テクスチャを使って頂点シェーダーで行われます。システムは 2 つの部分から構成されます。1 つは Houdini のツールセットです。モデルとアニメーションの処理、ボーン アニメーション テクスチャのベイキングを行います。もう 1 つは Unreal Engine のプラグインです。C++ で記述されており、群集のインスタンスを生成して制御します。

群集が 1 つになって動く必要がある場面のために、システムでは群集のさまざまな感情をトリガーできるようになっています。群集内の人々に適用できるアニメーション クリップが 100 種類以上あり、群集全体かその一部に対して有効化できます。また、アニメーションの状態間でのスムーズなブレンドにも対応しています。

Whiteson 氏は次のように述べています。「合図に応じて群集の動きを正確に制御できる能力は重要です。フィールドでのできごとに応じて使われる 7 種類の群集の演技について、アニメーションを事前に作成しました。 たとえば歓声を上げる場面なら、そのためのアセットをロードするだけで済みました。同様に、あまり興奮せず座っている場面でも、事前にアニメーションを設定したシミュレーションを使用できました。これは、生身の人間を合図に応じて一斉に演技させるよりもずっと簡単でした」
 
Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC

PXO のバーチャル プロダクション マネージャー、Jack Chadwick 氏によると、PXO のチームはリアルタイムの CG の群集を作成するにあたって、その全体で Unreal Engine の VFX システム Niagara に頼っていました。Chadwick 氏は次のように述べています。「リアルタイムのフル CG で動的な群集を作るうえで、Unreal Engine は中心的な役割を果たしました。Niagara を活用して、同じことの繰り返しではない、本物らしい群集を作ることができました。最大の課題の 1 つは、シミュレーションされるシステムで、キャラクターのアニメーションの数が限られているなかで、現実の群集の微妙なニュアンスを捉えることでした」

PXO はすべてのアニメーションについてモーション キャプチャを行いました。また、群集内の人々の 3D モデルは、現実の人々を 3D スキャンして作成されました。「Xsens モーション キャプチャ スーツを使って、長い時間をかけて多様なアニメーションを用意し、群集を現実的なものにしました。Unreal Engine のリアルタイム レンダリング機能を活用することで、迅速にイテレーションを行い適応させることができました」と Chadwick 氏は述べています。

Rahnama 氏は述べています。「プロジェクトの参加者全員はリアルタイム技術の限界を広げて、映像制作の問題を解決する新しい方法を見つけられるということを気に入っていました。このコマーシャルはその証明です。PXO、alter ego、WFW、VPA は協力することで、リアルタイムのバーチャル群衆だけではなく、LED ウォールでスローモーション撮影を行うよい方法も見つけることができました。こうしたことで、朝、目覚めた時に、さらに挑戦したいという気持ちになるのです。Unreal をホームグラウンドにすることで、挑戦も実現できると確信しています」
 

コマーシャル撮影のための LED ステージ

Caledon Football Club のコマーシャルは Stage 6 で撮影されました。これは、PXO と William F. White International (WFW) が所有する、トロントにあるバーチャル プロダクション ステージの 1 つです。2,000 平方フィート (約 185 平方メートル) の半円形のボリュームに、720 個の LED パネルと 175 個の天井パネルが据え付けられています。映像制作者は、実写の映像と、LED ウォールおよび天井にリアルタイムでレンダリングされる最先端のデジタル環境を組み合わせて利用できます。
Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC
LED ウォールを使うようになる前は、Caledon Football Club のコマーシャルのようなプロジェクトに臨むとしたら、alter ego は、50 人から 100 人ほどの人を実際のスタジアムに連れて行き、あちこち動き回らせて、あとで映像をまとめる必要がありました。

あるいは、群集を CG で生成し、映像をトラッキングし、前景のアセットにロトスコーピングを行い、ライティングと雰囲気を合わせてすべてをまとめようとする必要がありました。「いずれにせよ、CG の群集を作成する必要があるのなら、撮影の前に時間をかけて作成し、Unreal Engine を利用して LED ウォールでリアルタイムにアニメーションさせるのがいいでしょう」と Whiteson 氏は述べています。

そうすれば、カメラの位置を自由に動かすことができます。カメラでキャプチャされるものすべてが最終的な映像となるからです。また、現実の世界とウォール上の環境のブレンドは、ポストプロダクションでは真似できないものです。
Caledon Football Club のコマーシャルについては、alter ego は、煙の実写映像を CG のスタジアムの環境に加えるとともに、現実のステージも煙でいっぱいにしました。こうすることで、どちらの要素も 1 つのソースからのもののように感じられました。ライティングについても同様でした。
Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC
Whiteson 氏は次のように述べています。「Unreal の環境内でのスタジアムのライトは、レンズ内で現実のスタジアムのライトと同じように反応しました。カメラで生じたボケとカメラが捉えたアスリートの周囲を囲むライトは、現実のスタジアムと区別がつかないくらいリアルになっていました。これもポストプロダクションでは再現が難しく時間がかかる効果です」
Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC
群集の規模は、従来の映像制作手法では実現不可能なレベルでした。「実際のロケーションでの撮影では不可能だったであろうことを実現しました。 18,000 人以上のデジタルのファンがスタジアムで応援していました。現実のスタジアムでそれほどの人数を雇って撮影することは不可能です」と Whiteson 氏は述べています。

チームは、Unreal Engine を使用して 360 度の環境全体を作成し、カメラを動かすのではなく、フレーミングに合わせて環境を LED ウォール上で動かしました。Whiteson 氏は次のように述べています。「現実のロケーションでの撮影なら、試合が行われている雰囲気を捉えるために、カメラがフィールド中を動き回るようにしたでしょう。Unreal Engine を使うことで、ほんの数秒で、スタジアムの好きなところへと環境を簡単に切り替えることができました。時間をかけてカメラを動かす代わりに、ドリー トラックを置いたまま、世界の側を動かしました」
 
Courtesy of Pixomondo, alter ego, William F. White Int’l, Virtual Production Academy, Caledon FC

Chadwick 氏によると、LED スクリーンを使うことで、従来の手法と比べて時間を大幅に節約できたというメリットもありました。「このようなプロジェクトで LED ボリュームを使って撮影することの主なメリットの 1 つとして、スピードを挙げることができます。現実のスタジアムで撮影を行ったとしたら、コストがかかるのはもちろん、テイクごとにリセットして元の状態に戻すために長い時間がかかるでしょう。Unreal のリアルタイム レンダリング機能を活用することで、ボタンを 1 回クリックするだけでリセットできました」
 

撮影における不可能を可能にする LED ステージ

Whiteson 氏は、代理店や制作会社がバーチャル プロダクションの手法と LED ボリュームに期待を寄せるのには十分な根拠があると考えています。

alter ego は現在、Unreal Engine と LED ウォールなしでは実現不可能なプロジェクトに取り組んでいます。そのストーリーの舞台は冬ですが、撮影は 9 月に行う予定です。この場合、選択肢は 4 つあります。

1 つ目は、撮影時点で冬を迎えている遠い場所までロケーション撮影に行くことです。これは非常にコストがかかるやり方です。

2 つ目は、夏の終わりに地元のスキー リゾートで撮影を行っておき、背景全体をポストプロダクションで入れ替えるというやり方です。ポストプロダクションで多くのコストと時間がかかります。

3 つ目は、スタジオ内でブルー スクリーンを使って撮影を行う方法です。「この選択肢をとるなら、スタジオのライティングと 3D 環境のポストプロダクションに手をかけることになります。また、組み合わせた結果は完璧なものにはならないでしょう。スケジュールの都合でポストプロダクションにあまり時間をかけられないという事情もあります」と Whiteson 氏は述べています。

最後の 4 つ目の選択肢は、撮影前に Unreal Engine で環境を作成し、LED ステージを使う方法です。「この方法が最も良い成果を上げることができるでしょう。LED ウォールは非常に明るいので、ライティングの多くの面をこなすことができます」と Whiteson 氏は述べています。

「また、出演者と背景の組み合わせについても、合成した場合よりも優れた見た目になります。雰囲気を伝えることができ、セットに雪を降らせることもできます。これはブルー スクリーンの環境ではできないことです。降ってくる雪をキーイングしようとしたことはありますか。あれは悪夢のような作業です。予算とスケジュールの面で、LED ウォールは最もスマートな選択肢でした」

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