画像提供:The Walt Disney Company

Unreal Engine でビッグシティ・グリーンを 2D アニメーションから 3D アニメーションに変換

2022年12月15日
Disney Television Animation は ビッグシティ・グリーン のクリスマス シーズンをテーマにしたエピソードの目新しいアイデアを模索していくなかで、グリーン一家が「Outpost Infinity」という仮想ワールドに入り、いつもの 2D とは違う 3D の世界を体験するという、現実離れした設定を採用することにしました。

ただし、広く知られている 2D の IP を 3D 環境に変換することは、言うほど容易いことではありません。しかし、Disney Technology チームと共同で Unreal Engine を使いオリジナルのアートワークに忠実なビジュアルの開発から、従来の 3D アプローチとはまったく異なるリアルタイム CG パイプラインの構築まで行いました。最終的にチームは 2D パイプラインから状況を変える必要がありました。

ほとんどが Unreal Engine で制作され、高度にスタイル化された 16 分の「Virtually Christmas」の 3D 映像は、ディズニーが Unreal Engine を使用して制作した初のエピソードです。主にリアルタイム テクノロジーを使用して制作した単一のアニメーション エピソードとしては最長となります。
 

ビッグシティ・グリーンのクリスマス スペシャル エピソードでは、クリケット・グリーンがクリスマスに吹雪で友達の家から自宅に戻れなくなるという困った状況に陥ります。

幸いにも、クリケットの友だちの Remy が解決策を提供します。その解決策とは、レミーの新しい VR ゲームの 3D 環境で、クリケットが家族と一緒にクリスマスをお祝いするというものです。「このエピソードの制作作業では、従来の 2D のストーリーテリングと 3D のリアルタイムのストーリーテリングを融合する機会が得られました。このエピソードでは、キャラクターたちが仮想ワールドに入り、ストーリーが展開されます」と、Disney Technologyのソフトウェア エンジニアリング担当副社長、Kaki Navarre 氏は説明しています。

アニメーションを 2D から 3D に変換することは、アートおよびテクノロジーの観点で多くの課題がありました。まず、3D バージョンのキャラクターは、オリジナルの 2D キャラクターを忠実に再現する必要があります。

「ビッグシティ・グリーンのキャラクターたちが、動きにおいても、デザインにおいても、それぞれのキャラクターらしさが感じられるようにしたいと考えました。3D バージョンのクリケットを見て、「あ、クリケットだ」と思ってもらえるようにしたかったのです」と、ディズニーの 3D アニメーション スーパーバイザー、Jennifer Burchfield 氏は述べています。

このプロジェクトは、Unreal Engine に搭載されているリアルタイム パイプラインを使用してセットアップされました。ただし、このエピソードのアート スタイルには、物理ベースのゲーム エンジンのビジュアルとは異なるアプローチ、つまりフォトリアルなビジュアルではなく、高度にスタイル化されたビジュアルが必要でした。

ストップモーション とイラストのスタイルから着想を得たチームは、さまざまなアートやアニメーションのテクニックを駆使して、独自のビジュアルを開発しました。このためには、スタイル ガイドを作成して、一貫性を確保する必要がありました。このガイドで定義するのは、光と影がキャラクターとどのように相互作用するか、反射するサーフェスをどうのように表現するかなど、多岐にわたります。
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また、2D アニメーションにも着目し、2D スタイルと 3D スタイルのギャップを埋めるために活用できるテクニックも見つけることができました。Disney の 3D アニメーション ディレクター、Mark Droste 氏は次のように語ります。「ビッグシティ・グリーンは漫画です。キャラクターの腕は大きく伸び、目は大きく見開かれ、体は私たちにできないような動作を行うことができます。CG 化すると、多くの場合、特に 2D の視点からすると、動作の柔軟性が失われるという懸念があります」

3D でも 2D と同じようにキャラクターを漫画のように感じてもらうために、チームは 1 つのアニメーションの原則を重点的に適用する必要があると理解していました。それは、スクワッシュ&ストレッチ (潰しと伸ばし) です。

スクワッシュ&ストレッチは、2D アニメーターが弾力性や柔軟性を表現するために使用するテクニックです。キャラクターのより自然で生き生きとした動きを表現することができます。Droste 氏は次のように続けます。「特定のフレームで一時停止すると、面白いスクワッシュ&ストレッチを確認できます。顔が横に引っ張られています。このテクニックで、このアニメーションにばかっぽさを加えながら、ビッグシティ・グリーンのスタイルをしっかりと貫いているのです」
 
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また、チームはジオメトリのスミアも大いに活用するようになりました。スミア フレームとは、2D アニメーション テクニックで、動くオブジェクトの後ろに、まるで染み (スミア) が付いているかのようにいくつかの画像が続きます。これは、連続動作であるかのように見せるテクニックです。Burchfield 氏は次のように続けます。「ピーナッツやスパイダーマン:スパイダーバースに近いアプローチです。全体的にモーション ブラーを使用しないで作成したため、よりスタイル化された作品に仕上がりました」

これらのテクニックを実現するには、まずキャラクターのリグの作成から始めます。チームは、Maya でリグを作成して、コントロール リグ を使用してプレビズ用のアニメーション パスを作成するため、Unreal Engine に取り込みます。

その後、データをアニメーション シーケンスにベイクし、FBX でエクスポートして、アニメーターが Maya で最終パスを実行します。ディズニーの 3D アニメーションのパイプライン スーパーバイザーである Evan Binder 氏は、次のように述べています。「私たちは、スクワッシュ&ストレッチで得られるビジュアルを追求したかったので、Unreal Engine 以外で編集することは考えていませんでした。

パフォーマンス上の理由から、FBX 形式にすることは決まっていました。主に、FBX 形式がコントロール リグに適していることがわかっていたことと、これらのコントロールをアーティストに公開し、後で Unreal Engine で修正できるようにするためです」

Maya で最終パスが完了し、再度全体を Unreal Engine に取り込むと、チームはプロジェクトを完全なコンテキストで確認し、Unreal Engine でスミア フレームを追加して、変更を加えることができるようになりました。Droste 氏は次のように述べています。「Unreal Engine に戻ったら、フレームを追加したり、変更したりすることができます。ライティングを確認しながら、最終的にどのようなビジュアルになるかをすべて確認することができるのです。とにかく、何度もイテレーションします。このサイクルはきわめて迅速で、すばやく意思決定を行うことができます」
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Unreal Fellowship から最初のプロジェクトまで

ディズニーでは、以前からリアルタイム ワークフローについて学んできました。昨年の夏には、チームの数名のメンバーが Unreal Fellowship プログラムに参加しました。「Virtually Christmas」は、チームにとって Unreal Engine を使用した最初のプロジェクトです。Burchfield 氏は続けます。「私は、Unreal Engine が本当に気に入りました。それまで一度も使ったことがなかったのですが、とても簡単に使いこなすことができました。直感的に操作することができて、以前から使用していたような感覚を覚えました」

リアルタイム アプローチを採用したことで、従来のオフラインのプロダクション パイプラインでは順番に行う必要のあった作業を並行して進めることができるようになりました。編集、レイアウト、ライティング、VFX のすべてを同時進行できるため、チームは統合環境で相互に連携しながら、イテレーションを重ねる中でストーリーを確認していくことができました。

ディズニーの 3D アニメーションの CG スーパーバイザー、Megan Stifter 氏は次のように語ります。「これがリアルタイム ワークフローの最も優れた側面の 1 つと言えるでしょう。従来のアニメーションでは、アーティストやエンジニアは抽象的な状態で作業していました」
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「自分の作品がどのようなビジュアルになるかに関して最終的なコンテキストで作業していないため、推測で作業を行ったり、確認が必要な場合も多く、頻繁に変更が発生していました。その変更による影響を確認するために数日、数週間、数か月かかることもありました。リアルタイムで作業できると、こういった時間は完全に短縮されます。ほぼ瞬時に変更の影響を確認できるのですから」

このように瞬時に変更を確認できるたびに、本当にすごいと感激しました。サイロ化している各部門が同時に作業を開始できるので、更新がやりがいのある作業になりました。通常、このプロセスは、シネマティック ディレクターが作成したキューブ、シリンダー、プレビズ アセットから開始されていました。これらすべてをレイアウトをしながら作成することができ、最終アセットの制作中にも作業できるようになりました。その後、ブループリント、サブレベル ネスティング、ランドスケープ スカルプティング、スタンドイン プロップを使用して、アニメーション、シネマティックス、ライティング、技術の各部門が制作を進めることができます。モデルが完成した後は、Unreal Engine で簡単にモデルを切り替えたり、更新したりすることができます。

ディズニーの 3D アセット スーパーバイザーである Christina Douk 氏は次のように語ります。「Perforce ですべてのファイルを同期し、シーケンサーで再度開いたプロジェクトの [Play (プレイ)] ボタンを押すたびに、毎日新しいプレゼントをもらっているような気分になりました。Unreal Engine のおかげで、イテレーションがとても楽しく、興味深い作業になり、制作が進むにつれてインスピレーションもどんどん湧いてきました」

リアルタイム 3D 映画制作ツール

Unreal Engine の映画制作向けツールでは、実際のセットにあるツールが再現されています。Droste 氏は、プロジェクトの初期段階で、Unreal Engine を使用して、自分でストーリーのラフを作成しました。Droste 氏は次のように述べています。「このデジタル サンドボックスを使って、自分の頭で考えたものを Unreal Engine で構築することができました。
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プレビズ アセットを使って、全体をセットアップできた日は本当に最高でした。自分のアイデアを直接スクリーン上で再現できたのですから。Unreal Engine で気に入っているのは、環境をビルドして、ライティングを調整し、キャラクターを設定するのがとても簡単にできるところです。自分のアイデアが目の前であっという間に具現化されるのです。

「Virtually Christmas」のすべてのシーケンスが、シーケンサー を使用して編集され、単一の包括的なタイムラインになりました。編集プロセスを Unreal Engine で行うことで、チームは、エピソード全体と各ショットをコンテキストに合わせて表示し、オン ザ フライで変更を加えることができるようになり、従来のノンリニア編集ソフトウェアやパッケージにショットをエクスポートして同期させる、時間のかかるプロセスが不要になりました。
 
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Disney Technology のリアルタイム メディア ディレクター Andy Wood 氏は次のように説明します。「すべてが 1 つにまとまった巨大なプロジェクトであるので、従来のパイプラインではできなかった、迅速な修正も可能です。これは、Unreal Engine をはじめとする一元的なコンテンツ制作スイートだからこそ行うことができます」

特に、制作の終盤に大幅な変更が求められた場合、完成直前でもショットを調整できるので、大変役に立ちました。Droste 氏は次のように語ります。「私たちは、かなりの長さのシーケンスに手を加える必要がありました。通常であればこういった変更は致命的な影響を及ぼす作業になります。ですが、番組制作者とともに、3 分のシーケンス全体の手直しを、Unreal Engine では約 2 時間で行うことができました」

マルチプラットフォーム コンテンツ パイプライン

ディズニーは、アニメーション テクノロジー分野で常に限界に挑戦しており、技術チームもリアルタイム ビジュアライゼーションの新しい世界に飛び出しています。「Virtually Christmas」の制作にリアルタイム テクノロジーを取り入れたのは、ごく自然な流れでした。Wood 氏は次のように述べています。「技術が進歩すればするほど、より詳細なコンテキストをより迅速に把握するにはどうすればよいか、どうすれば新しい革新的な方法で作業できるかと考えるようになります。このようなプロジェクトの可能性として、リアルタイムを追求するのは非常に合理的だと思います」

ディズニーの「Virtually Christmas」でのリアルタイム テクノロジーの活用は、ほんの一例にすぎません。同社の技術及びクリエイティブチームは、バーチャル プロダクション、コンテンツのインタラクティブ性といった分野においてリアルタイム ワークフローの活用を模索し始めています。各部門が同時にリアルタイム コンテンツを作成することで、マルチプラットフォーム コンテンツ パイプラインの構築という素晴らしい可能性が広がります。
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プロジェクト開始時に最適化に関して適切な意思決定を行えば、特定の分野向けに作成された CG アセットや環境を、別の分野でも再利用することができます。Navarre 氏は次のように締めくくりました。「インタラクティブなフレームレートで動作するリアルタイム対応のアセットを先に作成しておけば、それを従来のリニアでフラットなコンテンツ制作、インタラクティブな体験やより没入感の高い体験など、あらゆるタイプの新しい形式の制作に活用できます。可能性は無限に広がります」

ビッグシティ・グリーン「Virtually Christmas」は現在(北米の)ディズニー・チャンネルとディズニー・プラスで配信中です。

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