Image courtesy of Quite Brilliant

バーチャル プロダクションがテレビ CM の可能性を広げる

2021年2月8日
LED スクリーン、インカメラ VFX、リアルタイム パフォーマンス キャプチャなど、最先端の映像制作技術による新しい時代が近付いています。そして、こうしたテクノロジーを、ハリウッドのスタジオだけでなくすべてのクリエイターが使えるようになってきました。

Quite Brilliant は、複数の分野に対応する新興メディア企業の 1 つであり、この種の映像制作がもたらすクリエイティブの無限の可能性を認識しています。これまでに短い形式のプロジェクトを多数手がけてきた Quite Brilliant は、テレビ CM などのコンテンツを厳しいスケジュールで配信しようとするクライアントにはバーチャル プロダクションが適していると考えています。

Quite Brilliant のマネージング パートナー、Russ Shaw 氏は、個人的な経験からその意見を保証できます。2020 年の初めごろ、撮影から戻る途中に、Shaw 氏は、ディレクターの Nick Jones 氏と、フォトリアルな自動車の CM を作成するためにゲーム エンジンがどのように使われているのかについて話をしました。

それをきっかけに、バーチャル プロダクションへの取り組みが始まりました。Quite Brilliant は実験的な映像を作成し、この技術が将来のプロジェクトに使えるものかどうかを評価しました。それからまだ 1 年も経っていませんが、結果は明らかです。Quite Brilliant は、イギリスで最新の常設型 LED ステージの主要なオープニング パートナーの 1 つとなっています。

Quite Brilliant のバーチャル プロダクションへの進出は、映像制作の重大なルネサンスと呼ぶ人もいる、大きなストーリーの一部です。Shaw 氏は次のように述べています。「クリエイティビティが最も重要なものへと返り咲きました。バーチャル プロダクションで仕事をすると、ずっとアイデアを思い付き続けることになります。どのような眺望で撮影することもでき、世界のどこにでもすぐにテレポートできるような状態になります」
 

フォトリアルな背景をただちに変更 

昨年ゲーム エンジンについて話をしてから、Shaw 氏と Jones 氏は、映像制作におけるゲーム エンジン テクノロジーの可能性に心を躍らせるようになりました。Shaw 氏はバーチャル プロダクションを試せる場所を探してあちこちに電話をかけ始めました。

やがて、Universal PixelsRebellion Studios がロンドン郊外の新しいスタジオに一時的な LED ウォールを設置していることがわかりました。Quite Brilliant のチームは、脚本を作成し、テスト映像を制作するプロセス全体を実施することを決めました。そして、このプロジェクトを実現するために、Satore Studio と手を結びました。

でき上がった短編映像では、屋外、賑やかなナイトクラブ、青々とした松林など、多様な環境を主人公が訪れます。従来の映像制作方法であれば、それぞれにセットを作ったり、さまざまな場所へと撮影しに行ったりする必要があったかもしれませんが、それとは対照的に、1 つの LED ステージを使い、1 つのロケーション、1 つのセットですべてを撮影できました。LED ステージでは、ボタンをクリックするだけでフォトリアルな背景を変更でき、驚くほどリアルな映像を制作できました。
 
Image courtesy of Quite Brilliant

非常にリアルなセットのライティング 

Quite Brilliant のチームは、カメラ、トラッキング デバイス、Unreal Engine、前景のプロップ、LED スクリーンを含むセットアップを使用しました。カメラにはトラッキング デバイスが取り付けられ、カメラの三次元位置とレンズの情報をサーバーに送信します。サーバーは Unreal Engine を実行する別のマシンと通信し、Unreal Engine のビューポートに表示された CG モデルで、パン、ティルト、ロール、ズーム、プル フォーカスする必要があることを伝えます。

従来の CG とは異なり、シーンはリアルタイムでレンダリングされるので、カメラ ビューとライティングをただちに変更できます。その画像が、この場合は disguise の RenderStream を介して LED スクリーンに送られます。これによって、カメラが移動した際に、奥行きがあるような錯覚、あるいはパララックス効果を生み出すことができます。

Shaw 氏にとっては、この映像制作方法によってセットですぐに成果を得られるということは、革新的なことです。「カメラのトラッキングと、映写される環境のリアルタイムのパララックスは、映像制作のあり方を大きく変化させます。このようにフォトリアルな映像を動かすことができ、さらにハードウェアが新しくなるごとに改善されていくのですから、とても楽しみです」
Image courtesy of Quite Brilliant
Shaw 氏はまた、LED スクリーンを使って実現できるライティングのリアリズムに驚かされました。「これほど精度が高い前景のライティングをリアルタイムで実現できるということは、あらゆる映像を改善できます。従来のクロマキーによるアプローチで同じ結果を得るには、ライティングについてよく考えるか、ポストプロダクションでプロジェクション マッピングを行う必要があるでしょう。自動車のような反射しやすいサーフェスを撮影する場合はなおさらです」

極めて輝度が高いルーフマウント LED ディスプレイを使うことで、チームは CG 環境からのライティングを使って前景のタレントとセットに光を当てることができました。これによって色温度が一致し、リアルに見えるようになりました。

シーンによってはただ雲が漂う空が表示されていますが、自動車が登場するシーンでは、街灯やさまざまな色が混ざった模様も表示されました。「これは、自動車の黒く反射しやすい車体やフロントガラスでは非常にうまく機能しました。反射がとても自然だということが、グリーン スクリーンを使った撮影と LED スクリーンを使った撮影の違いをよく示していると思います」と Shaw 氏は述べています。 
Image courtesy of Quite Brilliant

LED スクリーン対グリーン スクリーン 

Shaw 氏が気付いたとおり、LED ステージでの撮影は映像制作のパイプラインを一変させます。「ポストプロダクションの作業の大半がプリプロダクションに移ります。チームが使用した環境の大半は Unreal Engine マーケットプレイスで購入したものです。Unreal Engine マーケットプレイスにはバーチャル アセットが豊富にあります。アラジンの洞窟のようなものですね」と Shaw 氏は述べています。 

多くの作業について撮影前に着手できるため、チームはクライアントのために、カメラのアングルまで非常に正確なアニマティックを前もって作成できるようになりました。これを使って承認を得たり、調査を進めたりすることで、リスクや予期せぬ事態を回避できます。Shaw 氏は次のように述べています。「この点は制作会社である当社にとってメリットになります。調査のために作成したものを本番の撮影で再利用できるので、時間を無駄にすることがなくなります」

Shaw 氏が率いるチームは、このプロジェクトから多くを学ぶことができました。「バーチャル プロダクションでの撮影は、すべてに『ライブ感』をもたらします。従来のロケでの撮影に似ています。バーチャル プロダクションでは、すべてが互いに合わせて動き、トラッキングされるので、グリーン スクリーンよりも生き生きとした感覚を得ることができます」と Shaw 氏は述べています。 
Image courtesy of Quite Brilliant
「また、バーチャル プロダクションでの撮影は俳優にとって大きなメリットがあります。何もない緑の空間を見るのではなく、リアルな背景を見て、感じながら演技できるからです」

バーチャル プロダクション革命 

バーチャル プロダクションのセットアップに利用するリアルタイム プラットフォームの選択は容易でした。Shaw 氏は次のように述べています。「私にとっては、この種の仕事では Unreal Engine が唯一の有効な選択肢です。過去の経験から、タレントプールが大きいことがわかっています。それに、多くの教育機関がバーチャル プロダクションのコースを新たに導入しているので、その修了生によってタレントプールは間違いなくこれからますます急速に大きくなっていくでしょう」

よく知られているとおり、バーチャル プロダクションは、マンダロリアンなど、予算の大きな作品の制作で使われています。Shaw 氏は、小規模な制作会社やスタジオがこのテクノロジーの調査を始めるべきときが来たと考えています。「間違いなくこのテクノロジーを試しておくべきです」

テレビの広告など、短い形式のコンテンツを作成する人にとっては、バーチャル プロダクションのワークフローは、クリエイティブの可能性を広げるとともに、費用対効果に優れたプロダクション方法となります。「バーチャル プロダクションを使った CM の将来を本当に楽しみにしています。テクノロジーが改善され続けて、アセットのライブラリが拡大され続ければ、スピードのメリットとクライアントにとってのコスト削減の効果は、抗い難いものになるでしょう」と Shaw 氏は述べています。

利用しやすいバーチャル プロダクション施設の増加は、映像制作の新しい時代の到来を告げるものです。Shaw 氏は次のように述べています。「私たちはまだ、このテクノロジーのことをほんの少ししかわかっていません。拡張現実、フォトグラメトリー、モーション キャプチャの領域で絶えず発展が進んでいることも忘れてはいけません。バーチャルの世界は成長を続けていくでしょう」

Quite Brilliant は、イギリスにおけるバーチャル プロダクション革命の最前線に立とうとしており、Arts Alliance Ventures と提携して Garden Studios を開設する予定です。ロンドンに作られるこの新しいクリエイティブ ハブは、面積が 16 万平方メートルにおよび、サウンド ステージ、ワークショップ、技術的な設備を提供します。 
Image courtesy of Quite Brilliant
複数作られる予定のバーチャル プロダクション スタジオのうち、最初のものは現在予約受付中です。12 x 4 メートルの曲面 LED ウォールは、天井とトーテムがあり、Roe Diamond の 2.6 ミリメートル パネルBrompton S8 プロセッサーを使っています。また、セットでは、Procam が提供するさまざまなカメラ キットやアクセサリを選んで利用できるほか、複数のインスタンスの Unreal Engine を使用できます。

この新しい事業は、去年、家に帰る途中の車内での何気ない会話から始まった旅路の終着点には最適なものであると言えます。Shaw 氏は、バーチャル プロダクションによって、クリエイターは映像の作り方を全面的に考え直すことができると信じています。「この経験を通じて、バーチャル プロダクションによって制作のあり方を一から見直すことができるとわかりました。クルーが旅に出る必要はなくなり、ライティングを完全に制御した環境で複数のロケーションにおよぶセットアップを用意できます。一日中がゴールデン アワーになり、撮影監督の夢を現実にすることができます」

Shaw 氏は最後に、いつでも業界を変革する存在によって新しい働き方が促進され、好奇心の強いパイオニアが成功を収めることにつながっていくのだと指摘しました。「バーチャル プロダクションはそのような変革の 1 つだと信じています」

    Unreal Engine を今すぐ入手しましょう!

    世界で最もオープンで高度な制作プラットフォームを入手しましょう
    Unreal Engine はそのままでフル機能と完全なソースコードアクセスを提供し制作準備ができています。