TAW の学生たちが受賞候補作『Burning Daylight』を開発

Jimmy Thang |
2020年6月25日
デンマーク ヴィボー市にある The Animation Workshop (TAW) の学生たちが、SF ゲーム『Burning Daylight』を開発しました。このタイトルは現在、Steam で「非常に好評」という評価を得ています。このタイトルは現在、Steam で「非常に好評」という評価を得ています。他にも、Danish Game Awards (デンマークのゲーム賞) のベスト デビュー ゲーム/ベスト ビジュアル デザイン/ベスト オーディオ/ベスト ナラティブといった各部門にノミネートされました。驚くべきことに、この作品は彼らの初めてのゲームでした。彼らのうちだれも、プロジェクトに参加するような開発経験は実質的に持ち合わせていなかったのです。 

TAW は、主にアニメーションで知られている大学です。その教育を彼らはどのように利用して『Burning Daylight』を制作したのでしょうか?私たちは、ゲーム ディレクターの Frederik Overgaard Jeppesen と、テクニカル アート ディレクターであった Ole Josefsen にインタビューを行いました。二人とも TAW を卒業し、現在はそれぞれ、Ghostship Games と Tarsier Studios でプロのゲーム デベロッパーとして活躍しています。 


 

どのような大学で学び、どのようなカリキュラムを受講していましたか?また、卒業後の目標はどのようなものでしたか?
 
ゲーム ディレクターを務めた Frederik Overgaard Jeppesen:
私は、デンマーク ヴィボー市にある The Animation Workshop を卒業し、アニメーションの学士号を取得しました。卒業後は、しばらく独立して建築ビジュアライゼーションのプロジェクトに従事していました。現在は、コペンハーゲンの Ghostship Games でフルタイムの CG アーティストとして 『Deep Rock Galactic』の開発に携わっています。
 
テクニカル アート ディレクターを務めた Ole Josefsen: 私も Frederik と同じ授業に出ていました。卒業後は、スウェーデンのマルメ市の Tarsier Studios で職を得ました。現在は、そこで『Little Nightmares 2』に携わっています。 
 
プロジェクトへの取り組み方とその目標を教えてくれませんか?
 
Jeppesen:
Jeppesen: 大学1年のとき、私と Ole、そして CG ジェネラリストの Simon Furbo で、1年を通じてゲーム制作について初期段階の話し合いをしました。そして、いくつか非常に小規模な制作に取り組み始めました。そのとき Unreal Engine を選択したのは、ブループリント システムと質の高いリアルタイム レンダリングのためです。しかし、開発の規模は大したものではありませんでした。みんな 1年生ということで非常に忙しかったからです。ただし、少々のコツと非常に初歩的なパイプラインを確立することができました。

当初『Burning Daylight』は、POC (概念実証) として売り込みました。より大規模なプロジェクトを開発するための足がかりになると考えていたのです。最終的には、資金を得て本格的な制作に入ることになるかもしれなかったのです。しかし、このゲームに半年ほど取り組んでみて、私たちは、完結したプロジェクトにすることにしました。その制作方法を学ぶために非常に多くの投資を行ったためです。

売り込み用のピッチが制作されるとき、ディレクターには私がなりました。ストーリーの多くを書いたし、制作の構想をしっかりともっていたからです。テクニカル アート ディレクターの役割は、Ole が担いました。Unreal Engine を使っていたこともあり、技術とアート全般の専門知識をもっていたからです。
チームのメンバーでそれまでゲームを作ったことがある人はいませんでした。だから、各メンバーの主な目標は、Unreal Engine を使いながら協力して開発するという経験を多く積むことで、ゲーム制作の方法を知るということにありました。最終の製品のことを思い返してみると、この目標は達成されたと言ってよいでしょう。 

このゲームでの私の仕事は、構想をしっかりと維持しながら制作を推し進めることでした。ただし、CG アーティストとして、コンセプトアートを分担し、モデリングとテクスチャリングの仕事も受け持ちました。
学生のチームといっしょに作業したのでしょうか?もしそうなら、名前と役割を教えてもらえませんか?

Jeppesen: 私たちのチームの構成は次のようになっていました。
  • Frederik Overgaard Jeppesen: ディレクター、CG ジェネラリスト
  • Ole Josefsen: テクニカル アート ディレクター、パイプライン マネージャー、CG ジェネラリスト
  • Bernar Aganchyan: アート ディレクター、CG ジェネラリスト
  • Matilde Vinther: プロダクション マネージャー、CG ジェネラリスト
  • David Schmidt: リードアニメーター
  • Anja Sloth: CG ジェネラリスト
  • Simon Furbo: CG ジェネラリスト
  • Marcus Richter: CG および VFX ジェネラリスト
  • Thorbjørn Harders: CG ジェネラリスト
  • Tobias Dahl Nielsen: オーディオおよび音楽
  • Natascha Caja: パートタイム アニメーター
  • Mario Stefan Grosu: パートタイム アニメーター

私たちは非常に大きなチームでした。だから、毎朝だいたい 10分間のスタンディング ミーティングを行い、その後は、ゲーム開発に入ったり、相談相手とのメーティングやリードの会議を行いました。ディレクターとしてできるだけ大事にしようとしたのは、オープンで分かりやすいコミュニケーションです。チームの全員が自由に気兼ねなく話せるようにしたかったし、問題が起きたときは話し合いをして、中に溜め込まないようにしたかったのです。

チームはとても統制がとれていました。毎朝のスタンディング ミーティングのおかげで、プロダクション マネージャーたちは常にゲームの進捗状況に通じていて、それに応じた計画をたてることができました。そのため、私たちは、数カ月間に渡るマイルストーンを作成し、できるだけ計画どおりに進めることができたのです。 

ゲームの規模には、常に、最大限注意していましたが、できることを示すためにチーム全体が本当にステップアップしました。私たちは、ゲームのスコープをスリム化するために、コンテンツをドラスティックに削減することにしました。それによってゲームは格段にすっきりしました。ゲームの中のコンテンツをよい状態に保つために、私たちは「切るだけ、入れない」をモットーにしていました。
 

プロジェクトを開発するのに大学はどのように役立ちましたか? 
 
Jeppesen:
The Animation Workshop では、だれもが描画の方法を知っているので、最初から皆が共通の言語をもっていることになります。このことは、チームで作業する場合に大きなプラスとして作用します。この大学が育んでくれる重要な要素は、チームワークなのです。また、The Animation Workshop には、あらゆる業種のプロフェッショナルがゲスト講師として教えに来てくれます。たとえば、私の好きな先生には、かつて ILM (インダストリアル ライト&マジック) に勤めていた Leigh Russell 先生がいます。また、テクニカル アーティストの Samat Algozhin 先生は、基本的なブループリントの学習と Perforce の設定について教えてくれました。
 
TAW で実施される教育のためのプロジェクトは、小規模な映画制作です。全員が役割を割り当てられ、実際の映画制作をできるだけ模倣します。私たちのゲーム制作も映画制作と同じようなやり方で進めました。あるシーケンスでは絵コンテさえ作成しました。
 
TAW のコンピュータ グラフィックス コースでは、フルの 3D パイプラインを教えてもらいました。After Effects や Nuke といったさまざまなコンポジット ツールも教わりました。Unreal Engine の学習は、当時、プライベートな時間を利用して行うことでした。そうであっても、Unreal Engine が未来を体現するものであるという私たちの思いは揺らぎませんでした。強力無比なリアルタイム レンダリング機能は、5~15分もただ黙って待たなければレンダリングできないものの敵ではなかったからです。
TAW で素晴らしいのは、それまで Unreal Engine を使ってゲームを作成公開したことがなかったにも関わらず、私たちの活動を支援してくれたことです。これはおそらく、多様な考え方の人たちを強力に支えるスタッフによって学校が運営されているからだと思います。
 
プロジェクトへの取り組みから、開発についてどのようなことを学びましたか?
 
Jeppesen:
私が学んだのは、「チームワークが夢を実現させる」ということです。陳腐な言い方ですが。複雑なプロジェクトに取り組む場合、すべてを一人でこなせるわけではありません。まわりに人がいて、アイデアに挑戦したり、既存のアイデアを発展させたりできるのです。チームワークとは、となりにいる人を輝かせ、困難が生じた場合には助け合うことなのです。
 
ある時点でゲームを放置しなければならない、ということも学びました。私は完全主義者であり、ゲームのプロジェクトというのは本質的に欠陥、失敗、後悔の連続です。そのようのものを、締切が設定されている中で開発しなければなりません。実際、『Burning Daylight』をプレイすると、こうすればよかったとか、こうもできたのに、といったところが見えてきます。そのような経験から学んだことのうちの最大のものは、ある時が来たらゲームを放っておき、そのままにしておくということなのです。
 
Josefsen: 私が学んだことは、ゲーム開発とは想像していたよりも格段に多くのことが関わっているということです。ほとんどは技術的な側面についてなのですが、たとえば、セーブゲームが正確にどのように機能するのかとかは、それまで考えたこともありませんでした。UI 要素はどのように作成するのか?ゲームのビルドはどのように作るのか?そもそもビルドとは一体何なのか?とか、このようなことはすべてプロジェクトの開発過程で学んだことなのです。 
 
さらに、学んだことがあります。それは、繰り返す作業には、ツールを作成、利用することが本当に重要であるということです。その作業が 30秒しかかからなくても、塵も積もれば山となることがあります。そのような作業には、ツールのためのドキュメンテーションを書くということも含まれます。それによって、ツールがどのように機能するか繰り返し説明しなくてもよくなりますからね。
 
最後に、ゲームのスコープを適切に設定するということと、そのスコープをプロジェクトの開発過程の最初から最後まで常に現実的なものにとどめておくということが、きわめて重要であるということも学びました。
 
Unreal Engine の経験は、プロジェクトにどのくらい生かされましたか?
 
Jeppesen:
それほど多くの Unreal 経験をプロジェクトに注いだわけではありません。かつてあるプロジェクトで、ロボットをモデリングおよびリギングし、Substance Painter でテクスチャリングし、Unreal でいくらかのアニメーションとテクスチャマップをセットアップしたことはあります。ですから、私の Unreal Engine の知識は非常に基本的なものです。

幸い、とても素晴らしいドキュメンテーション動画チュートリアルが多数公開されているので、Unreal を使ってゲームを作ろうとする人は利用することができます。 
 
Josefsen: 私が Unreal Engine を使い始めたのは、TAW の 1年目でした。それは、自動車のモデルを作成し、インタラクティブなものにしようとしていたときです。いろいろなゲームエンジンを調べてみましたが、最終的に Unreal を選択しました。ブループリント システムが使いやすかったからです。まず、自動車のテンプレートを基礎として使用し、そこから少しずつ充実させていきました。「ヘッドライトを作るにはどうしたらよいだろうか?」とか、「サウンドを追加する方法は?」、「アニメーションを導入するには?」のように自問するようになったのです。次の 2年間では、さまざまなプロトタイプを作成しました。FPS とか、自動車ベースの戦闘ゲーム、サードパーソンのポケモン的なゲームなどを作りました。学士取得年が始まったころは、経験と言えるほどのものがありませんでしたが、この年に行うことになる作業量はそれはすごいものでした。
 
開発で最も難しいことは何でしょうか?また、それはどのようにして解決しようとしましたか?
 
Jeppesen: それはもう、ゲームのスコープが一番やっかいな問題でした。現実的な感覚をもって作成していかなればならないのです。野心をもってゲームを作成することは素晴らしくクールなことです。野心をどんどん追求していくことはできるでしょうが、ある時点で、時間との戦いになります。だから締め切りが近づいてきたら、ある種大胆な決断を下さなければなりません。それまで大事にしていた部分を諦めるのです。
 
他にもやっかいな問題がありました。それは、私たちが大所帯のグループであり、相談相手も多数いるという事実です。大規模なグループは、多くのアイデアと意見を育むものです。その結果、正しい活動指針を得ることは難しくなりました。私たちは、この問題に対処するために、リードたちに決定権を与えました。それに応じてスコープを調節したものです。 
最大の問題は、おそらく、チームにプログラマーがいなかったということだと思います。Ole は、ブループリントの知識をプロジェクトに投入してくれましたが、ゲームを開発するのと同時進行であらゆることを学習する必要もありました。彼は、技術を持ち合わせている人間であり、ブループリントの最も幅広い知識をもちあわせていたので、できるだけ彼がボトルネックにならないようにすることが重要でした。私たちはこの問題を軽減するために、ユーザーに優しいブループリントを作ってチームのほぼ全員が使えるようにしました。 
 
今もっている知識をもって当時に戻れるなら、このプロジェクトはどのようなものになるでしょうか?
 
Jeppesen:
そうですね、ゲームのプレイ面にもっと時間を使ったでしょうね。見栄えをよくするための時間は少なくなったはずです。試作段階後半のある時点で、ゲームは概念的であることを止め、本物の製品へと変わっていきます。ストーリーテリングについて言えば、そのような段階をもっと早めることが可能なのです。それには、Unreal を使う時期を早めて、そこで概念的な作業を行います。Unreal を使わずにあらゆるものを描いたり書き出すという方法は取りません。
また、ゲームのスコープを狭くして、ポリッシュ的な面に注力したはずです。大きなスコープを設定することはなかったでしょう。初期段階では、もっとプロトタイプを作成することで、本当にプレイを面白くするものを見つけようとしたことでしょう。また、開発終了近くにもっと時間を投入して、バグ全般を修正し、最適化し、ポリッシュしたはずです。これは私たち皆に大きな利益をもたらしたはずです。 
 
Unreal を使ってゲーム開発を始めようとしている学生たちにどのようなアドバイスを送りたいですか?

Jeppesen:
ゲームに関する自分の直感に自信をもってください。ただし、あまり傲慢にならないようにです。実行可能なことについて、現実的になってください。最初のプロジェクトで車輪の再発明をしないようにしてください。すごいと思うゲームを見つけて、その理由はどこにあるのか分析し、それを土台にしましょう。すべての偉大な芸術は、それに先行するものの上に築かれているのが常です。Unreal について言えば、素晴らしくも簡単に使い始めることができます。YouTube には学習教材が多数おかれているので、入門時にも役立ちます。ぜひ忘れないでほしいことは、プロジェクトを楽しむということです!

Josefsen: あらゆることに好奇心をもちましょう。最初は小さく、徐々に高度なものを作成するようにしましょう。たとえば、箱を動けるようにしてから、箱に懐中電灯を取り付け、サウンドも付け、ゲーム開始のためのメニューを作成してみましょう。セーブゲームがどのように機能するのか、ゲームのビルドをどのように作成するのか理解しましょう。プロジェクトを小さなサイズのかたまりに分割すると、数段わかりやすいものになります。現在は Unreal Engine のためのチュートリアル が多数出ていまるので、探しているものはどんなものでも見つかるはずです。公式のドキュメンテーションを通読しましょう。本当に、非常に多くのきわめて貴重なコツやヒントが随所に掲載されています。

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